これまでご覧になった方はおわかりのように、「新しい働き方」「働き方改革」を考えるのがこのコラムのテーマの一つです。今回から起業や副業・社内起業など、新しい働き方をしている人たちの実例を定期的に紹介していきます。第1回は老人ホームの施設長をしながら、過疎に悩む山村の活性化を目指して今年8月に起業した、狩野良太さん(37歳)のインタビューです。
 

ワーケーションやワークショップの場として活用

――今の仕事について教えて下さい。
狩野 大阪府内の有料老人ホームで施設長をしています。一方で、昨年より奈良県東吉野村で古民家を再生して誰もが集える「居場所」を作る取り組みを始め、今年8月に株式会社Rebeとして法人化しました。現在は、平日は有料老人ホーム、週末はRebeというダブルワークをしています。来年4月よりRebe一本で生活していく予定です。11歳を筆頭にまだ小さい子どもが3人いますので、学校のことなどを考え、家族全員での東吉野村への転居は考えていません。当面は大阪と東吉野村の二拠点生活を続けます。
――なぜ、起業を考えたのですか。
狩野 母親の実家が東吉野村にあります。しかし、祖母が高齢者施設に入所してしまい10年以上住む人がおらず荒れ果てていました。築100年以上の建物で造り自体は非常にしっかりしていますので、ここを活用して過疎化が進む東吉野村をどうにか活性化させたいと考えました。
――どのように活用していくのですか。
狩野 まずは、ワーケーション拠点です。都会にはない環境を求めて画家やデザイナーなどクリエイター職の人たちが東吉野村に移住してきています。これと同様の「日常とは違う環境でリフレッシュしながら働きたい」というワーカーのニーズに対応します。竈があるような家ですがWi-Fiを完備し、複合機を導入して都会のオフィス同様の環境を整えました。人口1500人の山村から世界を驚かせるようなイノベーションが起こるかもしれません。また、企業や学生、子どもたちなどのワークショップの場としても提案していきます。宿泊もできるように民泊施設としての許可もとる予定です。
さらに、私の介護職としての経験を活かして介護事業所を開設する考えです。このほか、村の人たちと村外の人たちをつなぐイベントを開催します。10月24日・25日にはプレオープンイベントを開催し、200人以上が参加してくれました。
 

クラウドファンディングで「人も集める」

――起業に際して一番課題となったことは何でしょうか。
狩野 やはり資金です。現在も家の改修は週末に随時行っているのですが、9月末時点で300万円ほどかかっています。200万円はクラウドファンディングで調達し、残りは自己資金を投入しています。クラウドファンディングは「私がしたいこと・かなえたい夢」を世間に広く伝えることになりますので、資金だけでなく「賛同して一緒に汗を流してくれる仲間」を集める効果がありました。改修は基本DIYで行い、その週の作業スケジュールはSNSなどにアップしていたのですが、それを見て全く知らない人たちが「何か手伝えることはありませんか」とボランティアで駆け付けてくれたことが何度もありました。こうして一軒の古民家を通じて「田舎暮らしに興味がある」「過疎・僻地問題を考えたい」など、様々な思いを持つ人たちとリアルに繋がれたことは大きな財産となりました。
――起業に際して特に重視した点は。
狩野 田舎での起業ということで、「地域の人たちにいかに理解して、受け入れもらえるか」を最重要視しました。村民の孫であっても、私は村外の人間です。「村の活性化」というメリットを掲げても、あまり快く思わない人もいるでしょう。ましてコロナ禍の現在、都会から人が来ることに対しては警戒心を持っています。そこで、まずは村の有力者などへのあいさつ回りからスタートさせました。1年ぐらいはこうした準備期間に費やしています。