リクルートの江副浩正氏、ソフトバンクグループの孫正義氏、ライブドアの堀江貴文氏、海外では、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏、Facebook(現Meta)のマーク・ザッカーバーグ氏は、いずれも経営者として名を成した人ですが、もう一つ共通点があります。それは「学生時代に起業を経験している」という点です。
 江副氏の頃は学生が起業することは非常に珍しく、苦労も多かったと考えられますが(それだけに江副氏の優秀さがわかりますが)、今は起業がずいぶんと身近になりました。学生が自分の得意分野などを活かしてどんどんビジネスを立ち上げています。
 

就活材料の一環として起業

 さて、何か新ビジネスのアイデアを思い付く、という経験は誰にでもあるかと思います。しかし、それを現実に形にするためには「資金」「人材」「販路」が必要です。年齢が若く、社会人経験が無い学生の場合はこれらの確保が難しいことが起業の足かせになっていました。そのため起業に際しては「親や親戚が経営者で、資金や人脈などはそこのサポートを受けている」という「完全に自立した経営」とは言えないケースもありました。
 その状況を大きく変えたのが、インターネット、中でもSNSの爆発的な普及です。資金は金融機関からの融資に頼らずクラウドファンディングなどで市場から直接調達できるようになりました。また、世界中の見知らぬ人とつながりを持つことが可能になり、協力者や販路を獲得することもずっと容易になりました。さらに、これまでのような「物を製造して売る」「自分の労働力を他人のために一定時間提供する」といったスタイルとは異なる「SNSなどで何かを発信する」こと自体がビジネスとして成り立つようになり、これまでよりもずっと少ない資金や労力で起業ができるようになりました。
 このような流れの中で、インターネットに馴染みのある学生がどんどんビジネスを立ち上げています。中には「学生時代に起業して、その会社は他の企業に売却。その際に得た人脈を活用して卒業後は大手企業に就職」と、起業が就職活動の一環となっているケースもあります。優秀な学生にとって、起業はアルバイトや部活動、ボランティア活動などと同じ「自分のスペックを上げるための一手法」の感覚になっているのが現実です。
 

大学研究室で執務するケースも

 さて、このように、起業は学生にとって決してハードルの高いものではなくなっています。しかし、そうした状況の中でも学生起業家にとっては難しいものがあります。それは「活動する場所の確保」です。
 一般的に起業前、起業後間もない時期は、自宅もしくは事務所用に借りた賃貸マンション・アパートが業務の場となります。しかし、学生の場合には実家暮らしでなければ自宅は狭いことが多く、経営に必要な環境が確保できません。また、学生の場合は、事務所用に賃貸住宅を借りるのは資金力や信用力の面で困難です。結果として、カフェやインターネットカフェなどを拠点とせざるを得ません。 
しかし、それらのスペースが「いつでも自由に使えるか」などの点で課題があることは、これまでこのコラムで述べてきた通りです。また学生の場合は、大学の研究室を執務スペースとしているケースもありますが、カフェなどと同様の課題があり、やはり十分な環境とはいえません。
 起業を目指す学生・学生起業家にとっては、コワーキングスペースの活用が効果的です。コワーキングスペースは元々起業に向けて勉強している人も対象の施設ですから、個人でも契約できます。利用料金は立地やプランにもよりますが、大都市中心部でも月に数万円程度ですので学生でも負担にはなりません。契約に際して保証人が必要なケースもありますが、学生ならば親がまだ現役で働いているケースが多いですから何の問題もないでしょう。
 また、何よりも大きいのが、多くの起業家やビジネスマンと自然に知り合える環境であることです。学生の弱点は「実際にビジネス経験がないこと」。起業塾や交流会などでは学べない、実際の成功例・失敗事例を直接聞くことができるのは何よりの財産といえるのではないでしょうか。