起業や副業・社内起業など、新しい働き方をしている人たちの実例を紹介するインタビュー企画の4回目は、2021年1月に「フリーランスの広報」として独立し、様々な企業のPR支援を行っている永井玲子さん(40歳)です。
 

ITベンチャー企業の広報を一から立ち上げ

――現在の仕事内容を教えて下さい。
永井 個人事業主として、様々な企業と契約してPR支援を行っています。その会社の情報を整理して広報戦略をたてたり、メディアにアプローチしたりするのが主な業務です。また、企業がしっかりとした広報体制を構築するための支援、例えば広報担当社員の育成なども行っています。
――なぜ、こうした仕事をしようと思ったのですか。
永井 食品メーカーでのルート営業を7年間経営し、2012年にITベンチャー企業に転職しました。当初は法人営業だったのですが、社長が「広報に力を入れよう」と考え、私が営業と兼務で広報を担当することになりました。会社としても初めてのことで、社内に広報がわかる人が誰もおらず、リリースの書き方やマスコミへの発信の方法などを全て独学で学び、その後は広報専属として活動しました。この経験やノウハウが今の仕事の礎になっています。
 19年にそのITベンチャー企業を退職して、別の会社で広報の立ち上げなどを担当しましたが、体調を崩してしまい1年間で退職をすることになりました。「次の仕事をどうしようか」と考えていたのですが、パラレルキャリアやフリーランスとして働いていた知人の勧めもあり、個人事業主として活動することにしました。
 

「フリーランス=不安定」とマイナスイメージ

――起業という考えは以前から持っていたのですか。
永井 全くありませんでした。むしろ「フリーランス・個人事業主は安定しない」とマイナスのイメージでした。実は私の夫は11年前に結婚した当時から鬱病を患っており、正規で就労ができない状態でした。私が一家の大黒柱として稼がなくてはいけませんでしたので「安定して収入があること」が働き方の最優先事項でした。しかし転職活動をするほど体調も戻っていなかったので、試しに21年1月にSNSで「フリー宣言」をしてみました。「これで仕事が来れば挑戦するし、来なければ転職活動をしよう」という程度の宣言でしたが、思いのほか仕事の相談をいただき、1年間フリーで活動を続けることができました。
実は現在第一子を妊娠中で2月に出産予定です。しばらくは産休・育休をとる予定ですので、妊娠が分かった当初はクライアントからは妊娠を告げるそばから契約を中断されるのではと思っていました。しかし最初に妊娠を告げたクライアントが非常に喜んでくれて、自社の社員の事例を元に、妊娠・出産・育児と仕事の両立についてアドバイスをしてくれました。それに安心してほかのクライアントにも妊娠を告げたところ、「いつまで働けるのか」「復帰後も仕事を任せたい」と言ってくれました。中には妊娠がわかっても新規の仕事を依頼してくれる方もいて、良い方に囲まれているなと嬉しく思いました。
 

会社員もフリーランスも陸続き

――仕事に対するモチベーションはどのようにして維持していますか。
永井 広報という仕事にやりがいを持っています。どれだけ良質な商品やサービスであっても、それが人に知られなかったら売れる以前の問題です。広報がいることで、情報を的確に興味のある方へつなぐことができます。それらが世の中に広がり、多くの人の生活が豊かになる可能性を秘めている使命の大きい仕事だと考えています。
企業が商品やサービスを宣伝する方法としては広告がありますが、広告は企業から消費者への一方的なメッセージになることもあります。広報担当者という「熱意を持った人」が介在することにより、メディアやその先の消費者と双方向的で血の通ったコミュニケーションがとれます。よい広報担当者がいれば営業社員何人分もの売り上げになる場合もあります。そのサービスや商品を知ることで助かる人が出てきます。そうした企業の成長に大きく寄与できる可能性がやりがいになり、モチベーションにつながります。
――同じ広報という仕事を、会社員と個人事業主という2つの立場で経験したわけですが、両者の違いとして、どのようなことを感じますか。
永井 独立した元同僚や以前からお付き合いのあった他社の社長さんが、当時の仕事ぶりを見ていてくれて仕事を依頼してくれるなど、会社員とフリーランスの間に大きな溝がある訳ではなく、すべては繋がっているのだと実感しています。
 また、ひとくくりに広報と言っても、クライアントによって目指すところは本当に様々です。そこは企業広報時代よりも密にコミュニケーションを取りながら進める必要があると感じています。