「公務員は副業禁止」が常識だが・・・

 このコラムの第1回でもお伝えしましたが、近年、日本を代表する大手・有名企業が次々と社員の副業・兼業を認めるようになり、日本人の働き方は大きく変化しています。
 その一方で厳しい副業禁止規定があるのが公務員です。最近、消防署員がゲーム実況動画をYouTubeで配信して収入を得ていたとして処分を受けたことがニュースで報じられました。これに対し、ネット上などでは「これが副業にあたるのか?」「いくら何でも厳しすぎるのでは?」と、今の時代とのギャップの大きさに呆れたり、疑問視したりするコメントが多く見られました。
 そうした中で、奈良市は職員が報酬を得て副業を行う際の基準を定め、2月1日より運用を開始しました。厳密に言うと、地方公務員が職務外で報酬を得ることは禁止ではなく、任命権者の許可があれば可能です(地方公務員法第38条1項)。奈良市でも2020年度は13件の副業が認められています。しかし、これまでは、任命権者の可否判断基準が明確になっていませんでした。今回、それが明確化されたことで(任命権者の許可はこれまで通り必要です)、職務で得た知識や技術、私的な趣味・特技などを活かした副業が進むことが予想されます。
 
 奈良市が副業の対象として認めたのは「地域貢献活動」です。具体的には「保健、医療又は福祉」「社会教育」「まちづくり」「農村振興」「観光振興」「環境保全」「子どもの健全育成」「災害救援」などに寄与する公共性の高い活動で、「営利主目的の活動」は禁止です。したがって、単純に「今よりも収入を増やしたい」と考えての飲食店でのアルバイトなどは認められていません。ユーチューバ―などSNS上で活動して収入を得ることも、自治体のPRにつながる内容などに限定されます。
だだし、市の人事課によれば「民間企業での就業を一概に禁止するものではない」そうです。例えば、英語が堪能な職員が、地域の子どもたちに英語を教えるために英会話教室で講師をすることは、子どもの健全育成につながる地域活動といえます。しかし、ビジネスマンを対象にした英会話教室は営利活動とされる可能性があります。同様に、絵が得意な職員が漫画雑誌で連載を持つことは認められないでしょうが、地域の観光ガイドやパンフレットにイラストを描いて報酬を得ることは可能と思われます。
いずれにせよ、「得る報酬額が地域貢献活動として適当どうか」「本来の職務に支障を来さないか」「就業先が職務と何らかの利害関係にあるか」などを判断した上で、副業の可否が判断されます。
 

副業経験が行政サービスの品質向上にも

 このように、一般的な「副業解禁」とは実態は大きく異なりますが、これまでよりもずっと副業を行いやすい環境が整いました。
当たり前ですが、公務員も他の人たちと同様に、多彩な趣味・特技・才能を持っています。例えば、現在芸能界で活躍されている、役所広司さん、田中要次さん、山村紅葉さん、藤井フミヤさんなどは元々公務員でした。こうした才能を持った人たちが、公務員の立場のまま、それを社会のために活用できれば、社会はもっと潤いがある物になるでしょうし、彼らが副業で得た知識や技術、人脈などを本業に活かすことで、行政サービスの品質向上が期待できます。今後、こうした点を期待して奈良市同様に一定の条件下で職員の副業を認める自治体も増えていくのではないでしょうか。
 
さて、その場合、重要となるのが「副業の場」です。例えば奈良市では、想定される地域貢献活の一例として「地域の歴史や文化の勉強会の実施」をあげています。それを行うに講義用の資料作成の場が必要です。これまでのコラムでもご説明してきたように、本来は働く場ではない自宅やカフェなどは使い勝手に問題があります。
街の規模などにもよるでしょうが、市役所などの公務員の職場は街の中心街にあることも多く、周囲には民間の貸しビルが多数あるでしょう。その中にあるシェアオフィス・コワーキングスベースを活用すれば、就業後に副業をできるため非常に便利といえます。